作家インタビュー第22回 junoさん

インタビュー作家座談会

junoさんは30代。既婚です。nikoli.comやケータイサイト数独の運営スタッフで、自称「ニコリでいちばんの猫好き」。ペンシルパズル作りを始めたのは最近ですが、メカニカルパズル(組み木や知恵の輪のような、実際に手で触れて遊ぶパズル)では世界的な有名人なのです。今回はそのあたりのことを重点的に聞いてみました。

(竹)まずは生い立ちから聞かせてください。小さいころからパズルで遊んでいたんですか?

juno絵合わせパズルやジグソーパズル、迷路などでも遊んでいましたが、それよりも、ブロック遊びをしている時間が長かったです。うちには規格が違う数種類のブロックや積み木がありました。それらを混ぜて使って、兄弟やいとこと戦争をしていました

(竹)戦争とは?

juno複数の軍に分かれて、ブロックや積み木を組み合わせて基地を作るんですよ。基地は自由に作ってもいいんだけど、同じ規格のブロックどうしの突起を使ってくっつけるのはナシ。相手の基地を攻撃する武器もブロックで作ります。投石機の要領です

(竹)シーソーを作って、てこの原理でブロックを飛ばす感じですか?

junoそうです。壊されたくないから、どうしたら頑丈な組みかたになるか試行錯誤しました

(竹)そのころから凝り性だったんですね。本格的なパズルに触れたのは?

juno兄が中学校の図書館から借りてきた、高木茂男さんの『Play Puzzle』という本を読んだ影響が大きかったです。メカニカルパズルがいっぱい載っていたので、木で作ってみました

(竹)最初から自分の手で作ったんですね。お店で買おうとは思わなかったんですか?

juno都会では売っていたと思いますが、故郷の高知は田舎なので売っていなかったんですよ

(竹)なるほど。どんなものを作ったんですか?

juno立体ペントミノやジェミニ、Cube Pyramidなどです。ペントミノは、正方形を辺でくっつけてできる形で、全部で12種類の形状があります。ペントミノに厚みを1辺の長さと同じにしたものを立体ペントミノといい、5×4×3の直方体など、いろいろな形を作る遊びがあります

(竹)メカニカルパズル作りの活動は現在でも続けられているんですよね。どんなことをされていますか?

junoIPP(International Puzzle Party)というメカニカルパズル収集家のパーティがあって、そこに参加しています。ほかには、臨時講師として大学でワークショップを行っています。正12面体の頂点と面を入れ替えると正20面体になります。双対の関係というんですけど、こういう概念を実際に立体モデルを作ってもらいながら解説しています。空き時間にはメカニカルパズルの紹介もしています。授業を通して、立体図形の面白さや数学の実用性をみんなに知ってもらえたらいいなと思っています

(竹)ところで、junoさんはメカニカルパズルのほかに、竹とんぼの製作も特技なんですよね

junoはい。始めたのは高校を卒業したころです。本屋で『竹とんぼ夢中人』という本を見つけたんですよ。ハマりました。一日8時間くらい、ひたすら竹とんぼを作っていました。作りはじめて1年くらいたったときに福岡の全国竹とんぼ競技大会に参加しました。でもダメでした。ちょうど台風が近づいていて、風が強かったんです。その後、竹とんぼのために『翼型学』や『航空工学概論』、『ヘリコプター入門』などの本を買って研究しました。竹とんぼはヘリコプターよりも設計が難しいんですよ。翼に対して入ってくる空気の角度が刻一刻と変わるんです。研究の成果を試そうと思って、翼を厚くして失速しにくくした竹とんぼで1992年の大会に参加したら、優勝できました

(竹)私のような門外漢からすると『竹とんぼの大会というものが世の中に存在する』ということじたいが驚きです。竹とんぼのどんなところが魅力なんでしょうか?

juno極限を追究するところ、『一番』がはっきり決まるところです。竹とんぼの世界では、どれだけ長く、どれだけ高く飛び続けたかどうかがすべてなんですよ。どんなに偉そうなことを言っていても、作った竹とんぼが飛ばなければ『でも、おまえの竹とんぼ飛ばないよね』で勝負がついちゃうんです。僕が優勝したときの大会でも、飛ばす前は『こんなの飛ばないよー、翼が細すぎない?』って笑われたりしたんですけど、いざ飛ばして優勝したら、次の大会では僕のとよく似た竹とんぼで参加している人がたくさん出てきました(笑)

(竹)むかしは自転車を作る工房で働いていたんですよね? それも手作り工作の延長でしょうか?

junoそうですね。これも高校を卒業したあとのことなんですけど、自分のロードレーサーを自分向けの仕様に改造してみたのがきっかけです。最初はパーツを交換してみるくらいだったんですけど、それだと改造といっても限界があるんです。根本的なところから変えなければ究極の自転車にはならないと思い、フレームを作るところから考えるようになり、それが高じて仕事になってしまいました

(竹)レース用の本格的な自転車を作る工房で働いていたそうですが

junoフレームビルダーという職業があるんです。パズル以外の生活の糧を考えて、フレームビルダーになろうと思い立ちました。世界一になるには東京に出るしかないと思ったので、単身上京しました。自転車雑誌の募集広告を片手に、自転車屋さんに行きました

(竹)いきなり直接訪問したんですか。度胸ありますね

junoこういう場合はアポを取ってから訪問するものだという一般常識は、そのときに知りました。でも、自分で改造した自転車のサドルや、自作のメカニカルパズルを見せてアピールしたところ、採用してもらえました

(竹)気に入られたんですね

juno向こうとしては『いいカモが来た』と思っていたかもしれませんけど(笑)。そこで5年半くらい働きました。店の人とはよくケンカしました。『日本一』を自称していたんですけど、実際は日本一じゃなかったからです

(竹)竹とんぼの話でも『一番』ということを気にされていましたね。一番にこだわりがあるんでしょうか

junoこだわっています。当時日本のトップトライアスリートだった中山俊行氏の『一番以外は全部負け』という言葉があって、それは、僕の信条でもあります。僕はどう考えても走るほうでは一番になれないので、作るほうで一番を目指そう、と

(竹)なるほど。いまはニコリでコンピュータ関連の仕事をしていますよね。どうやって勉強したんでしょうか

junoその工房にはパソコンがあって、自転車の設計をするためのCAD(立体の製品を設計するための支援ソフトウェア)が入っていたんです。独自のBASICプログラムで動くものでしたが、正確な設計をするためには、計算に使うパラメータが不完全だったんです。設計の段階でそういうところがあるとダメです。いいものができません。それで、表計算ソフトで、より正確な設計ができるようにしました。複雑な計算をさせるために、パソコンのメモリも増設しました。このころにできた僕の格言が『メモリをケチるものは時間を失う』です。自転車屋を辞めたあと、秋葉原のPCショップでアルバイトをしたり、IT関連の派遣業に就いていたこともあります。それで詳しくなりました

(竹)そろそろペンシルパズル作りの話題に移りたいと思います。ニコリスタッフになる前に、ペンシルパズル作りの経験はあったんですか?

juno高校時代にパズル雑誌がはやったことがあって、そのころにペンシルパズルを作ったことがありました。当時、ちょっとしたパズルブームがあったと思います

(竹)1980年代前半、ニコリ以外にもたくさんのパズル雑誌があふれはじめた時期ですね。どんなパズルを作りました?

junoクロスワードを作りました。趣味丸出しのクロスワードです。当時、『OMNI』という科学雑誌に傾倒して、科学技術や宇宙論にハマっていたんです。なので、素粒子に関係する言葉ばかり詰めこんだ問題を作りました。映画オタクの友人が映画タイトルの『バツクトウーザフユーチヤー』を組みこんだ問題を作ってきたのに対抗して、『ウチユウカイハツジギヨウダン』(宇宙開発事業団)なんて長い言葉も組みこんだりもしました

(竹)数字を使ったパズルを作るようになったのは最近ですよね?

junoそうです。ニコリで仕事をするようになったのも、パズルを作ったり解いたりするためではなく、パズルサイトの運営をするためでした。数字のペンシルパズルはほとんどやったことがなかったです。ニコリの存在は知っていたんですが、2次元よりも3次元のほうがかっこいいと思っていたので、意識の外でした。いろいろ手を出して全部不十分になってしまうのがイヤなので、必要度が低いと思うものは、バサバサ切り捨ててしまいます。独身生活のころは、テレビは時間の無駄になるから置かなかったし、自炊もしませんでした」

(竹)どうして作ってみる気になったんでしょう?

junoサイト運営の作業の合間に、内容を知っておこうと思って問題を解いてみたら普通に解けたんです。それで『普通に解けない』ような問題を作ってみたいと思って、作ってみました。最初に作ったのはぬりかべです。ただ、いま振り返るとありえないくらい難解な問題を作っていました。サイトの責任者である(金)に見せたんですが、一蹴されてしまいました。ニコリイズムというか、『解かせよう』という気持ちで作るという考えかたがわかっていませんでした。いまでも、なにも考えずに作っていくと、ニコリ向きじゃない問題になってしまいます

(竹)いまもぬりかべは好きですか?

juno好きです。アイディアを取り入れやすいパズルだと思います。独自性を出すために、問題を作るときにはまだ誰もやっていないようなアイディアを組みこみたいですね。ましゅもツボにハマりました。二者択一で決まる場面が多いところがいいです。手筋の応用のバリエーションがたくさんあって、新しいことを表現しやすいです

(竹)逆に苦手なものはありますか?

juno解くほうだと、ひとりにしてくれが苦手です。いくらやっても上達しないんですよ。作ったこともないです。スリザーリンクも苦手です。単にやりこんでいないだけかもしれませんけど

(竹)ペンシルパズルとメカニカルパズル、両方を作っている人は珍しいと思います。この2つの共通点や違いはありますか?

junoどちらも『作る人と解く人とのコミュニケーション』という意味では共通していますよね。違いについてはあまり考えたことがないです。関係あるかどうかわからないけど、僕はだいぶ大きくなるまで、すべての人間は立体図形を頭の中で回転できるものだと思っていたんですよ。頭の中で組み木を組み立てたり、崩したりできるもんだ、と

(竹)そうなんですか! メカニカルパズルを頭の中だけで解いちゃう人は、junoさん以外にはほとんどいないと思います(笑)。質問を変えて、理想としているパズルはありますか?

juno解く人の記憶に残るパズルです。そのために、誰もやらないようなことをやっていこうと思っています

(竹)だいぶ長いこと話しこんでしまったので、そろそろ締めようと思います。junoさんの問題を解いてくださるみなさんにメッセージをお願いします

juno勝手に楽しんでください。パズルには、なにも生産的なところがありません。そういうものに脳を使うのは、人間の特権だと思います。好きなように楽しんでください


インタビュー : 2009年1月 2009年2月12日公開

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