パズル作家座談会 第8回

インタビュー作家座談会

紙か、電子か、それとも…?

ニコリは昔から本や雑誌といった「紙媒体」でパズルを出題してきました。一方、ここ数年でnikoli.comやケータイ、ゲーム機などいろいろな「電子媒体」にも進出し、おかげさまでご好評をいただいています。そこで今日はあかしょうびんさんアスピリンさんにお越しいただき、紙媒体上のパズルと電子媒体上のパズルとの違いや共通点について考えてみました。ニコリスタッフはいつもの(金)(竹)でお送りします。

(竹)今日は、紙媒体と電子媒体の違いについて話したいと思います

あかしょうびんこの記事を読む人のほとんどは、ケータイやパソコンでパズルを解いているんですよね。そうするとたぶん、紙で解くときとの違いは誰もが感じているんじゃないかな

アスピリンでも、紙でパズルをやったことがない人はいるかもしれないですよ

あかしょうびんそうか、電子媒体で初めてパズルに触れた人がいるのか

(金)ケータイやパソコンからパズルの世界に入ってきた方は意外に多いですよ

あかしょうびんとはいえ、古くからパズルをやっている人は、みなさん紙と電子との違いについて一度は考えたことがあると思うんですよ。だから、今回はありきたりな結論では終わらせたくないですね

(竹)実際、あかしょうさんはパソコンが一般化していなかった時代からパズルを作られていますよね。今も紙で作られていますか?

あかしょうびんいやあ、今はすっかりパソコンに移行しちゃいました。紙で問題を作っているのは、推理パズル(文章で書かれたヒントとチェック用の表を使って情報をすっきり整理するパズル)みたいなパソコンを使って作りにくいものだけですね

(金)清書の手間が全然違いますもんね。アスピリンさんは最初からパソコンを使って作っていた?

アスピリンいえ、紙だけで作っていました。今も半分くらいは紙で作っていますよ。ただ、美術館や四角に切れはパソコンのほうが作りやすいです。パソコンで解くことを前提に作っているので、パソコン使って作ったほうが作りやすいんですよね。逆に、紙で解くこと前提としたら紙の上で作ったほうがたぶん作りやすいです

(竹)紙媒体で解くための問題と、電子媒体で解くための問題を意識して作りわけているんですか?

あかしょうびんたとえば、ペンパ本用の問題は紙で作るように心がけているとか?

アスピリンはい。ただ、パズルによります。紙媒体と電子媒体で解き味に差があるパズルと、そうでないパズルがあるので、まずはそれを選別しています。そのうえで、差があるパズルについては意識して作りわけています。たとえば、カックロなんかは差を意識してないです

あかしょうびんカックロは紙で作るときとパソコンで作るときの差を感じにくいですね。感覚的にはほとんど変わらない。逆に、さっき出た美術館は、解く感覚からして紙と電子とであまりにも違いますね

(金)確かに、画面上で解くときに、紙で解くときより解きやすいパズルというのはどうしても差がついちゃいますね

アスピリン橋をかけろなんかもパソコンで解きやすくなったと思います。橋をかけろについては私は紙で作ったことがないので、差があるかどうかはわからないですけど

(竹)美術館が紙より解きやすい理由ってなんなんでしょうね

あかしょうびんやっぱり自動で照らすことがものすごく大きいですね。nikoli.comやケータイパズル数独のパズルで、ソフト側が積極的に解く人のサポートをしてくれるのって、あれくらいじゃないかな

(金)ほかには、四角に切れで四角を広げているときに面積が出るのもサポートですね

アスピリン橋をかけろも島の数字がグレーアウトしますよね

あかしょうびんなるほど。どれも紙と電子の差があるパズルですね。ということは、紙と電子の差が大きいパズルにはソフト側のサポートがあるということか!

(金)ナンバーリンクで、数字にマウスカーソルを乗せると相手の数字がわかるのもサポートですね

あかしょうびんちょこっとだけだけど、それも確かにサポートですね

(竹)ナンバーリンクについては、消しゴムがいらないというほうが大きいかも

あかしょうびん消しゴムがいるいらないの話は、紙と電子の違いを語るときにはよく出てくるネタですよね。ほかには、黒マスが一瞬でぬれるとか、線がまっすぐ引けるとか

(金)手が汚れないとか

アスピリン細かいところをいえば、問題を盤面の左上方面から作らなくてもよくなったというのがあります。紙の場合、右利きの人は、たぶん左上から解きたい人が多いじゃないですか。手で鉛筆の跡がこすれたりするので

あかしょうびん鉛筆の都合を考えて、左上から解かせるのが隠れた親切ってよくいわれますね


(金)数独を作ったり解いたりしていてハタンしたときは、電子のほうが絶対にいいですね。アンドゥ機能(間違った操作をしたときに、操作する前の状態まで戻せる機能。nikoli.comの『一手戻す』もこの一種です)を使ってハタンしたところまで戻せるから。紙だともうどうしようもないから、全部消してやり直すしかないですよね

あかしょうびん間違った数字を入れたタイミングなんて覚えてないですからね

アスピリンでも紙で難しい数独の問題を作るときに、数字が入る順番をメモしながら作ることはありますよ

あかしょうびんボクもカックロを作るとき似たようなことをやったことはあります。ハタンしそうなとき、あとからその場面に戻るための目印としてカッコつきで数字を入れたりしていました。カッコで足りなくなったら数字を三角で囲んで、それでも足りなかったら丸、四角、と記号を増やしていったり。ハタンしたらまず四角のとこだけ消してみて、ダメだったら丸も消して…といったふうに作っていました

(竹)解くときはともかく、問題を作るときには試行錯誤が必要な場面もありますからね

アスピリン紙だといろいろ工夫してますけど、パソコンで作るときは『別名で保存』でカンタンに途中の状態を保存できるんですよ。あれはほんとうに便利

あかしょうびんおもしろいね。問題を作るときの試行錯誤のテクニック。昔は、記号をいろいろ使いわけ。今は、『別名で保存』(笑)

アスピリンほかにも、パソコンだとアンドゥ機能を利用した裏技があるんですよ。たとえば美術館をパソコンを使って作るとき。試行錯誤をする直前で1つのマスを連続でクリックして、同じところで何度も照明をつけたり消したりしておくんですよ。そのあとふつうに進めていって、もしもハタンしたとき、さっきのところまで戻すためにアンドゥ機能を連発することになるんですけど、どこまで戻ればいいかすぐにわかるんですよ。同じところで何度も照明がチカチカするところまで戻せばいいので

(金)おお、それは電子ならではのワザだね(笑)

(竹)それはもしかしたらケータイやnikoli.comで問題を解くときにも使えるかもしれませんねえ。もっとも、解くときにはそこまでタイヘンな試行錯誤はまったく必要ないんですけどね

アスピリンいろいろな人に聞いてみたら、まだなにかワザがあるかも

(金)あるかもしれないですね。電子媒体ならではの解きワザ。紙では無理なんだけど、電子だとこうすればラクに解けるんですよー、という

(竹)今度、解き手のみなさんに募集してみましょうか


あかしょうびん実は、今回はひとつネタを持ってきたんですよ。なにか書くものありますか?

(竹)はいはい、ありますよー。(紙とペンを出す)

あかしょうびん最近、iPadが話題になっていますよね

アスピリンiPad?

(金)大きめのタブレット端末ですね。キーボードがついていなくて、全部タッチパネルで操作します。iPhoneを大きくした感じですね

(竹)ほかにも似たような機器がいくつか出てきていますよね。ここでは、まとめて『タブレット端末』とよびましょう

あかしょうびんパソコンともケータイとも違う新しい電子端末です。それで思ったんですよ。ケータイもパソコンもゲーム機もまとめて『電子媒体』とよんでいますけど、実はまとめちゃダメだろうと。たとえばケータイとパソコンだって、似てるところもあるけど実は違う。なので今回は、これまで一口に『電子媒体』とよばれてきたものをあえて細分化して、そのうえで紙も含めていろいろな媒体でパズルをやるときの共通点と違いをまとめてみたいんです

アスピリンなるほど

あかしょうびんスペック表ってあるじゃないですか

(竹)ケータイとか車とかのカタログによく載っている表ですね。製品のスペックや機能や比較をできますよね

あかしょうびんそうそう。あれに似たことをやってみたいんです。というわけで表を書きます

あかしょうびんまず、媒体の種類を並べます。まず、『紙』。次に『ケータイ』

(金)それから『パソコン』

あかしょうびんあと、iPhoneや携帯ゲーム機のような『タッチパネルつき小型端末』。それからさっき話に出たiPadとかの『タブレット端末』。この5つのスペックを比べて表にしていきましょう。まずは基本的なところで『画面サイズ』から。まず紙は、制限がないので大きい。ケータイは小さい。パソコンは大きい。タッチパネルつき小型端末は小さい。タブレット端末は大きい

(竹)いいですね

あかしょうびん次に『マスの選択方式』。どうやってマスを選ぶか、ということです。紙はいつでも直接好きなマスを選べるから…

(金)『自由』ですね

あかしょうびんそうですね。ケータイは『カーソル』です

(金)このカーソル操作がほかと比べると少し手間がかかりますね

あかしょうびんパソコンは『マウス』で、タッチパネルつき小型端末とタブレット端末は『タッチ』操作です

アスピリンほぼ『自由』ですね

あかしょうびんそれから『文字の入力方式』。紙は…『手書き』と書いておきましょうか。ケータイはボタンですね。パソコンはキーボード。タッチパネルつき小型端末とタブレット端末は基本的にはボタンと手書き、両方が使えます。ただ、携帯端末のほうには大きさの限界があって、たとえばカックロでマスの上に直接手書きで書きこむというのは厳しいですよね

(金)そうですね、サイズ的に無理ですね

あかしょうびんところが、タブレット端末だと画面が大きいから、紙のようにマスに直接手書きで数字を書いて解けるようになるかもしれないんですよ。そうすると、nikoli.comで人気が出にくい数独やカックロについても、状況が変わるかもしれない。数独やカックロがほかよりも解かれていない理由のひとつに、操作の問題がありますよね。まずマスを選んで、そのあと数字を置く、という操作をしないといけない。美術館やぬりかべは紙よりパソコンのほうが操作が楽になっているのに、数独やカックロはむしろ紙より手数が増えている。私はこの『心のハードル』がものすごく効いていると思っているんです。そういう意味でタブレット端末には期待しています

アスピリンでも、たとえばケータイの美術館だと、マスを選ぶときにカーソルを何マス分も動かさない場面もありますよね。紙で解くときより手数が増えているんですけど、そんなにストレスに感じたことはないんですよね。その違いはなんでしょう

あかしょうびんケータイの画面が小さいからかな。たとえばパソコンの画面で、マスの移動がカーソルでしかできないような美術館があったら、端から端まで動かしたくないでしょう?(笑)

アスピリン確かにイヤになりますね(笑)

あかしょうびんここまでが仕様の話です。ここからは機能の話をしましょう。たとえば、『一発黒マスぬり』機能

(竹)ワンタッチでマスがキレイにぬれる機能ですね

あかしょうびん紙は×。あとは○ですね。『一発消しゴム』機能。これも紙だけ×なんだよねえ。好きなマスを一発で選択できる『一発マス選択』機能。紙は○。ケータイは…できないね

(竹)カーソルを動かして選ぶしかないですもんね

あかしょうびんパソコンは○かな

アスピリン数独だと、マスはマウスで選べるけどそのまま直接数字を書けないからビミョーですね

あかしょうびんそうですね。まあ、一発マス選択機能としては○ということで。数字を直接書き込める『一発数字入力』機能のほうは、パソコンは×。ケータイとタッチパネルつき小型端末も×。紙はもちろん○。タブレット端末は、理論的にはできそうなのでカッコつきの○で

(竹)がんばればできる、ということでカッコつきなんですね

あかしょうびんこうやってくとそれぞれの差がわかっていくんですよ。ざっと見てちょっと紙が不利なので、このへんで紙に有利な機能も(笑)。たとえば『電源不要』機能を入れちゃいましょう

(金)確かに紙だけ○だ

(竹)紙はどこでも解けますからねー

あかしょうびんあ、今いいこと言った。『どこでも解ける』機能も考えます。紙はもちろん○

アスピリンケータイも○ですね

あかしょうびんパソコンは…△かな。小型端末は○。タブレット端末は…どうでしょう?

(金)△かな?

アスピリンでも、パソコンよりは優れていると思いますよ

(金)むしろパソコンが限りなく×に近いのかも。黒三角?(笑)

あかしょうびんじゃあ、○を◎にしましょう。紙、ケータイ、小型端末は◎。パソコンは△のままで、タブレット端末が○

(金)いいですね

あかしょうびんどんどん行きましょう。さっき話題に出たアンドゥ機能

(金)これは紙に不利ですね。ほかは全部○だ

アスピリンじゃあ『落書き』機能を

(竹)自分だけの記号を自由に落書きする機能ですね

あかしょうびん紙だけ○でほかは×ですね。『タイム測定』機能

(金)紙は△かな。工夫すればできるから。あとはみんな○ですね

アスピリンあれはどうですか、他者と比べられる機能

(金)ランキングとか他人の履歴を見たりする機能?

アスピリンそうですそうです

あかしょうびんなるほど、えー…『他人の解いた結果と自分の結果を比べられる』機能とすればいいのかな

(金)紙は×ですね。ケータイは…△かな

(竹)ランキングには対応してますけど、解き途中の履歴は見られませんからね

(金)そういう意味で○はパソコンだけかな

あかしょうびんタブレット端末もシステムを作ろうと思えば作れそうなので△で。ほら、こうやって表を作っていくと、それぞれの得意不得意がわかるでしょう? 個人的にiPadは過去に世に出てきた電子機器の中でいちばん紙に近づいているんじゃないかと思ってます。『落書き』機能のところでタブレット端末に×をつけましたけど、たぶんiPadでも不可能じゃないとは思うんですよね

(金)ただ、紙って、印刷しちゃえばあとはユーザが好きに使っていいじゃないですか。でも、たとえばiPadに落書き機能を持たせようとしたら、どこかの技術者ががんばって開発しないといけない。そうすると開発費も時間もどんどんかさんじゃうんですよね

アスピリンオモパ(『パズル通信ニコリ』で連載されている、新しいペンシルパズルのルールをみんなで考えるコーナーで生まれたパズル)なんかも紙だからできる企画ですよね。あれを紙以外でやっていくのは無理じゃないですか。毎回、新しいパズルが出てきては消えていくんだから、とても作っていられないですよ(笑)

あかしょうびん『開発コスト』もスペック表に書いておきましょう。紙が◎で、ほかは△

(竹)ケータイは端末側の制限が大きいのでほかより開発が厳しい気はしますね。iPadもこれから作る必要があるという意味ではコストはかかるのかな

(金)項目としては『ユーザリーチ』も欲しいです

アスピリンユーザリーチってなんですか?

(金)その商品がどれくらいユーザに到達しやすいか、という基準。たとえば、ケータイは日本国内の同じケータイのユーザしか遊べないから×。パソコンは、パソコンとネットワーク環境があればnikoli.comで遊べるから○。紙は輸送の問題さえ考えなければ機器などの環境に関係なく使えるから花丸ですかね

あかしょうびん紙はアフリカの奥地でも持っていけますからね

(金)小型端末は…世界で遊ばれているものがあるから△かな。タブレット端末は今のところは×ですね、どれくらい普及するかわからないし

(竹)『未定』にしておきましょうか。今後に注目、ということで

あかしょうびんあとは『目が疲れない』というのもあったほうがいいですね。紙の大きなメリットです。…とりあえず、こんなところですか。この表を見ていくと、紙向きのパズル、ケータイ向きのパズル,パソコン向きのパズル…というのがわかりやすくなるんですよ。カックロがnikoli.comより紙上で人気があるのはなぜか、と思ったときに、表を眺めて『一発数字入力』機能の差かなあと考えることができる。これまで直感的に向いているとか向いていないとか考えていたのが、表に当てはめて確かめられるんです

(竹)なるほど

アスピリンどの項目を重視すればよいかもパズルごとに変わってくるんでしょうね。カックロだと『一発数字入力』が大事だけど、ナンバーリンクだと『アンドゥ』や『一発消しゴム』が関係するだろうとか

あかしょうびんたとえば、スラロームを紙でやるのとnikoli.comでやるのはどっちがいいの? という話をするときにもこの表は使えます。比較してみた感じ、あ、同等レベルなのかなとすぐわかる

アスピリン直感的にも同等な感じはしますね

(金)おもしろい表ができましたね

(竹)今日は今後のペンシルパズル界にとってもかなり生産的なものができたと思います。ありがとうございました!


座談会開催 : 2010年4月 2010年5月11日公開

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