パズル作家座談会 第9回

インタビュー作家座談会

「やさしさ」について考える

今日のテーマは、パズルの「やさしさ」です。ゲストは、やさしい問題を作るのが得意なおふたり、坂本伸幸さんと中井亮平さん。ニコリからは(金)と(竹)が参加しました。これを読めば、やさしい問題を解くのが何倍も楽しくなる…かも。

(竹)改めてお聞きしますが、やさしい問題を作るときって、最初からやさしい問題を作ろうと思って作りはじめますか?

坂本伸幸はい。だいたいはやさしい問題を作ろうと思って作っています。例外は数独で、難しい問題を作ろうとしていてなりゆき上、途中からやさしくすることがあります

中井亮平ボクも最初からやさしいのを作ろうと思って作っています。ただ、難しいものを作っていて、やさしくなることはありますね。逆はほとんどないですけど

(竹)でも、やさしい問題を作っているうちに、難しい手筋を入れたくなる誘惑にかられることがありませんか?

坂本伸幸たま~にありますね

(竹)誘惑にかられたらどうするんですか?

坂本伸幸まあ、誘惑に乗りますね

(竹)えっ、乗っちゃうんですか(笑)

坂本伸幸はい。そういうときはもう難しい問題として作ってしまって、あとでまったく別に、カンタンな問題を新しく作っています

(金)やさしい問題を作っていて、途中から難しくしちゃうこともあるんですね

坂本伸幸ほんとうにたまにですけどね。具体的には、作っている途中でたまたま難しいイイ手筋を思いついたとき。ただイイだけじゃなくて、自分の中でこれは今までにない新しい手筋じゃないか、くらいすごい発見じゃないといかないですね。めったにないですけど

中井亮平個人的には、難しい問題を作るときより気にすることは少ないと思います。難しい問題を作るときって、意図しないところでやさしい手筋で解けてしまわないように注意しないといけませんよね。でも、やさしい問題を作るときは、上級手筋を使って解かれてしまってもいいじゃないですか

坂本伸幸あ、そのへんはボクは少し違います。やさしい問題では上級手筋を使って解けちゃうとつまらないと思っていて、できれば避けるようにしています

中井亮平逆に、上級者ならここから解いたほうが早く解けるよ、という場所を用意するのもいいかなとも思いますよ

(金)一歩進めて、ここから解いたほうが早く解ける、と思わせて、実はそこからは解けなくて初心者的に解いたほうが結果的には早く解ける、というのもおもしろいかも

(竹)そこまで行けるとカッコイイですね。上級者より初心者のほうが早く解ける問題

中井亮平でもそれは難しいなあ。どうやって作ればいいんだろう(笑)

(竹)やさしい問題に対して、一部の解き手さんから『この問題は手の運動だ』という評価をいただくことがあります。どう思いますか?

坂本伸幸手の運動でいいと思うんですけどね。根本として、みんながすべての問題を楽しまなくてもいいんじゃないかという考えがボクの中ではあります。初心者問題が楽しくないという方がいらっしゃるなら、それでもかまわないのかなあと

中井亮平ボクはできることなら全部楽しんでほしいですね。初心者から上級者まで楽しんでもらえるのは、やさしい問題しかないですし

(竹)手の運動っていわれるのは、中井さんは不本意ですか?

中井亮平ちょっと不本意ですね。たぶん、ツマンナイっていう意味でいわれているのだと思うので、できればいわれないような問題にしたいです

坂本伸幸ボクは万人が楽しめなくてもいいというのがあるので、気にしないです。実際、やさしい問題に対して『手の運動』という評価を残される方が楽しめる問題というのは、おそらく初心者には解けないと思うんですよ

(金)そうかもしれませんね

坂本伸幸もちろん、どちらの立場でも楽しめるような接点もあると思うんですが、それを見つけるのは難しい。それよりは『初心者が楽しめる問題』ということをまず優先して作りたいんです

(金)とにかく難しければ難しいほどいい問題だ、という価値観の方は必ずいらっしゃいます。そういう方にはカンタンな問題というのは絶対に受け入れられないんですよね

坂本伸幸そう思っています。とはいえ、そういう方たちの何割かは、こちらからがんばってすり寄らなくても、パズルをずっと続けていると、初心者向けの問題もアリだね、ってなってくれると思うんですよ

(金)『あ、やさしいパズルもいいもんだな』とある日気がつくんですよね

中井亮平作者側もそうですよね。ボク自身、作りはじめたときは、やさしい問題は作っていませんでした

(金)最初はどうしても難しい方向に行っちゃいますよね

(竹)しかたないのかもしれないですね。自分が覚えたばっかりの手筋はやっぱり使ってみたいですから

坂本伸幸なので、解き手にしても作者にしても、やさしい問題の魅力に気づいてもらえるまで待つしかないと思っています

中井亮平ボクはやっぱり、問題を作るからには、できるだけ多くの人に楽しんでもらいたいです。なので、やさしい問題を作るときでもなるべく個性的になるように作っています。ひとつの手筋を繰り返し使ったりして

(金)中井さんの四角に切れはそういう問題が多いですよね。すごくいいです

中井亮平ありがとうございます。ただ四角に切れは最近やることがあまり残ってないですね。やり尽くしちゃいました(笑)。まあそれは冗談として。ある程度のこだわりは入れたいです。こだわらないと、作るほうもそれこそ『手の運動』になっちゃいますからね

(竹)坂本さんもひとつの手筋にこだわることがありますよね。スリザーリンクなどで、小さい輪っかを作らない手筋を繰り返したり

坂本伸幸そうですね。ただ、あれはやさしいとは思うんですけど、いわゆる『初心者向けの問題』ではないと思っています。手筋的にはやさしいんだけど、初心者には見つけにくい問題。どちらかというと、さっきの『手の運動』発言をされる方へ向けた問題ですね

(竹)やさしい問題にも、初心者向けのものとそうでないものがあるということですね

坂本伸幸はい。そういう意味で、今のニコリの難易度の基準(らくらく・おてごろ・たいへん)とは別軸の基準があってもおもしろいんじゃないかと思うことがあります。手筋的にはやさしい手筋しか使っていないんだけど、次の一手が見つけにくい問題は『おてごろ』とするような基準です

(金)ただ、見つけにくいかどうかってブレがありますからね。もし、なにも考えずに、たまたますんなりその一手を見つけてしまった人のことを考えると、やっぱりそういう問題に『おてごろ』はつけにくいですね。だから、ニコリの難易度評価としては、使われている手筋の難しさが優先なんですよ

坂本伸幸そうですね。だからこそ、ボクみたいに難易度ギリギリの問題を狙う人も出てくるんでしょうね。やさしい手筋だけでどこまで難しくできるか、というような

(金)坂本さんはそういう挑戦が大好きですよね

坂本伸幸メンバーズページのボツ箱のコーナーで公開された、2010年1月17日出題の坂本伸幸のぬりかべさすが、よくわかってらっしゃる(笑)。やさしい問題に限らず、ギリギリを狙うのは大好きなんですよ。ボツになるかどうかのギリギリを狙ったヘンな問題もよく投稿しています。このあいだ、nikoli.comでボツ箱に載った問題もギリギリセーフだと思って送ったんですけど…

(金)あれはどう考えてもアウトでしょう(笑)

坂本伸幸ところで、ボクがやさしい問題を作るのが難しいと思うのは数独なんですよ。特に、表出数字(盤面にあらかじめ明かされている数字)は何個まで許されるのかというところで悩みます

(金)個人的には、表出数字の数が30個を超えている問題はなんかちょっとズルイ気がしますね。もちろんダメということはないんだけど。作品として美しくないですからね

中井亮平数独以外でも、ボクは表出数字が少ないほうが好きなんです。スリザーリンクとかでもそうですけど、数字が少ないほうが、キレイですよね。やさしい問題でも、できるだけ見た目をキレイにしたいんですよ。そんなことないですか?

坂本伸幸うーん…

(金)坂本さんはスリザーリンクで数字を固めるのが好きですから

坂本伸幸いちばんいいのは、数字が少なくて、初心者向けな手筋がまんべんなく入っていて、しかも解きやすい、というのが揃ったものだと思います。でも全部揃ったものを作るのはボクには無理なので、じゃあなにを捨てるかと考えて、まっさきに数字の少なさを捨てています

中井亮平ボクはそれでも数字配置にこだわっていますね。問題を作っているとどうしても最初に決めた場所以外に数字をつけたさなければいけないことが出てきますけど、そういうときでもなるべくキレイに見えるようにたしています

(金)数字は位置にこだわって、なおかつ手筋にもこだわる、というのはハードルが高いですよね。そこが中井さんのいいところですね

坂本伸幸ボクなんかは困ったらどこでもすぐに数字をつけたしますね(笑)


(竹)ここで下世話な話題をひとつ。パズル以外の部分で、自分のことを『やさしい人』だと思われていますか? ぜひ、ここは自己申告でお願いします

中井亮平ボクは、超やさしいですよ

(金)そうですよね。麻雀でも、にこにこしながら『ロン、国士無双』っていいそうだよね(笑)

中井亮平麻雀はともかくとして(笑)。ふだんの生活でも面倒見がいいといわれています

(竹)そうですね、中井さんはやさしい人だと思います

坂本伸幸私は、やさしい人ではないですね

(金)以前のインタビューでも、自分で天の邪鬼っておっしゃってましたよね

坂本伸幸それもそうですし、たとえば、仕事のメールで、相手から懇切丁寧に書いてきてくれたメールに対して、必要最低限の情報だけ事務的に書いて返したりします。めんどうになっちゃうんですよ

(竹)パズルで表出数字を多くするのと逆ですね(笑)

(金)でも、メールは短ければ短いほうがいいと思いますよ。私もメールは簡潔に書きたいです。まあそれはいいとして、パズルの問題のやさしさと、人格としてのやさしさは違う性質のものかもしれませんね

坂本伸幸あの人はやさしい人だ、っていうときって、万人向けというか、いろいろな人のことを思いやるというニュアンスがありますよね。ボクがパズルでやさしい問題を作るときは、さっき話したように、初心者向けなら初心者だけに対象を絞って作っています

(竹)なるほど

(金)ただ、やさしい問題を作れる人は、社会性はあると思いますよ。独りよがりだとやさしい問題は絶対に作れませんからね。伝えたいことがあっても、それをどう伝えれば伝わるだろうということをちゃんと考えられる人じゃないと、解く人には通じないんですよね

坂本伸幸パズルを作るときはそうですね。すごく考えています。実社会では自信がないですけどね(笑)

(竹)解く人にわからせよう、という気持ちが重要だということですね。今日はありがとうございました。どうかこれからもやさしい問題をたくさん作ってください


座談会開催 : 2010年5月 2010年6月21日公開

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