パズル作家座談会 第13回

インタビュー作家座談会

難問に関するエトセトラ

nikoli.comやケータイに問題を作ってくださっている作家さんをおよびして、ひとつのテーマについて深いお話をする作家座談会のコーナーです。今回のテーマは「難しい問題」。難しい問題が好きな方も、ちょっと苦手な方も必見の内容ですよ。ゲストは難しい問題に定評のある鴈野敏生さん宮崎晋一さん。ニコリスタッフからは(金)(竹)が参加しました。

なお、文中に「手筋」という言葉が何度か出てきます。ここでは、「こういう状態のときは、必ずこう決まる」という、解くときのパターンのことを手筋とよんでいます。

(竹)おふたりとも、難しい問題をよく作られていますよね。作るだけでなく解くのも難しいほうが好きですか?

鴈野敏生カンタンな問題か難しい問題かどちらか選べ、と言われたらそうかな。作るほうは、実はカンタンな問題も好きなんだけど

(金)そうなんですか?

鴈野敏生ただ、難しい問題を作っているときは、こんな難しい手筋があったのか、ということがあるじゃないですか。そういうものはカンタンな問題にはないねえ

(竹)新しい発見をするのが好きということですね。宮崎さんもそうですか?

宮崎晋一私も、難しいほうが好きです。特に解くときは難しい問題が好きです。作るときは、最近はあんまり難易度を気にしていないんですけど、むかしはどうやったら難しくなるかということばっかり考えて問題を作っていました

(金)だから、今日ゲストにおよびしたんですよ

宮崎晋一でも、ほんとにむかしのころですよ。高校生のころかな。それ以降は、難しいというより、頭を使って考えて『ああそうなのか』とわかったときの感動を伝えたい、ということを考えて作っています

鴈野敏生私は、難しい問題を作るとき、そういうことをあんまり考えずに作っちゃっているんで、よくないなあと反省しているんですよ。思いやりが足りないなあと

(金)そんなことはないと思いますよ。せっかくこういう手筋を思いついたんだから、それを解く人に伝えたいという気はありませんか?

鴈野敏生あるんだけど、たまにあきらめちゃうんだよね(笑)。ほかの人のインタビューや座談会の記事を読んでいて思うのは、みんな『悟り』がある

(竹)悟り、ですか?

鴈野敏生私は悟りをまだ開いていない。やりはじめたらタイヘンになってもういいや、となっちゃうことがあるんですけど、それじゃいけない。もうちょっとわかりやすくできないかと考えなきゃいけないだろうなと自分で思うんですよ。でもなかなか悟りが開けなくって

(竹)そういうお考えをもってらっしゃることじたい、解く方のことをしっかり意識されている証拠だと思いますよ。宮崎さんはそのあたりのことをかなり意識されていますよね

宮崎晋一そうですね。意識しています



(竹)ところで、難しい問題、と一口に言っても、いろいろなタイプの難しさがありますよね

宮崎晋一どなたかも以前言っていたことなんですが、ペンシルパズルの難しさって大きく3つに分けられると思うんです。『推理』で考える難しさと、『試行錯誤』で考える難しさと、単純にヒントがなかなか見つからないという『見つけにくさ』の3つ。実際の問題ではそれぞれがいろいろからみあっててどれってパッと決められるものじゃないんですけど、イメージとして3タイプあると思います。私はこの中では『推理』による難しさを大事にしています。ニコリも基本的には『推理』の難しさを重視しているように思っています。でもたとえば、ひとりにしてくれというパズルは、解き筋と関係ない数字をわざわざ入れて、見えにくくしている。パズルそのものの傾向として、『見つけにくさ』の方向に向かっているんですよ。それで私なんかは、『推理』が好きだから、あえて解き筋が見えやすいように数字の並べかたに注意を払ったりしています

(竹)なるほど

鴈野敏生今の『見つけにくさ』に入るのかもしれないんだけど、解き進められる部分がだんだん狭まってきて、また広がるというタイプの問題があるじゃないですか

(金)解くときにキモとなる部分が一カ所しかなくなって、そこが解けないと一生先へ進めないというタイプの問題ですね

鴈野敏生そう。ああいうのがけっこう難しいと感じることがあります。ただ、ニコリの判定基準では、あまりそのあたりは気にされていないんじゃないかと感じています

(金)そうですね。いくら見つけにくくても、たまたますぐ仕掛けに気がついちゃうとすんなり解けてしまう問題、というのは、それだけでは難しい問題とは評価しにくいんですよね。ニコリでは使っている手筋そのものの難しさだけを見て難易度を判定するのが基本です

(竹)どんなに見つけにくい手筋でも、その手筋がやさしい手筋だったら、問題としての難易度はやさしいものと評価しますね

鴈野敏生その『やさしい手筋だけで解ける』かどうかを確かめるのって、タイヘンじゃないですか? 私なんかは、たとえば数独を解くとき、やさしい手筋だけで解こうとは考えないで、『予約』(ある2つのマスに注目して、どちらかがどちらに入るかはともかくこの数字とあの数字が入るから、ほかの数字はこの2マスには入らない、という考えかた)なんかをホイホイ使っちゃうんですよ

(金)確かに、『予約』を使わなくても解けるかどうかを判定しないと難易度の評価はできないですね。数独でいうと、やさしい手筋だけで解いていって、そのまま解きおわれば『らくらく』、やさしい手筋だけじゃ絶対に解けないという段階になって、初めて中級手筋を使う、という手順で難易度の評価をつけています

宮崎晋一やさしい手筋だけで解けるのに、気づかずに『たいへん』をつけちゃったら困っちゃいますもんね

鴈野敏生やっぱりそうやっているんですね。タイヘンでしょう

(竹)問題の難易度を評価する作業は、純粋に解くのとは別の作業ですね

(金)このマスはこの手筋を使えばすぐ決まるんだけどなー、と思いながら、見なかったことにしてほかのところを解かなければいけないんです

(竹)難しさの分類の話に戻りますが、鴈野さんもこの分類は妥当だと思いますか?

鴈野敏生細かいところの解釈がズレているかもしれないけど、妥当だと思いますよ。『試行錯誤』というのは、ためしにこのマスをこうしてみたら、と仮定してやってみて、ダメになったからこっちだ、という考えかたですよね

(金)そうですね。ニコリではあまり積極的には推奨していない方向ですね。そちらの方向を極めていっちゃうと、二択のままずーっと進んでいって、最後の最後でダメだったから全部もとに戻してこっちだ、というすごく煩わしい問題になってしまうんですよ

宮崎晋一それはそれで見てみたい気はしますけどね、究極の試行錯誤(笑)。ニコリのパズルの楽しみかたとは違いますけど

(竹)二択の試行錯誤で個人的にイヤだなあと思うのは、片方のケースを仮定したときに、それでたまたま最後までうまくいってしまったときの葛藤です。答えが出ちゃったからよし、とするか、もう片方のケースも試してやっぱりこっちはダメだった、と確認するか

宮崎晋一たとえがいいかどうかわからないですけど、迷宮を探検するロールプレイングゲームで、分かれ道で片方の道を選んだら、先の階へ進む階段が見つかったときみたいなものですね

(金)わざわざ戻って、間違いの道を見にいったりしますね

鴈野敏生作るときには、どちらにしても全部のパターンを試さないといけないんですけどね。別解があるかもしれないから

(竹)そうですね。編集するときももちろんそうです。あくまで純粋に解き手として解くときの話ですね

宮崎晋一ただ、手筋が『試行錯誤』か『推理』かというのは、あいまいなところがあるんですよね。今、定番といわれている手筋の中にも、元々は試行錯誤から生まれたものがけっこうある

(金)スリザーリンクの33そうなんですよね。特にスリザーリンクの手筋には多いですよ。タテヨコに33が並んでいるのだって、もとは試行錯誤なんですよね

宮崎晋一ですよね。なので、すぐ結果がわかる二択の試行錯誤をひたすら使い続ける問題、なんて問題は、アリじゃないかと思うんです

(竹)鴈野さんはそういう試行錯誤が好きじゃないですか? 特に橋をかけろ。この島から引ける橋はこっちかこっち、と絞っておいて、こっちはダメだからこっちだ、という展開がよくありますよね

鴈野敏生ありますね。でも、逆に、橋をかけろから試行錯誤を取っちゃったら難しい問題ができないんじゃない?

宮崎晋一橋をかけろは、そういうところがありますよね

鴈野敏生橋をかけろに限らず、最初は試行錯誤的に考えないといけないんだけど、一定のルールが発見されたら、それは手筋に入るんじゃないかと思います

(竹)さっきのスリザーリンクの手筋もそうですもんね。確かに、試行錯誤がどこまで許されるかというのはビミョーなところではあると思います

宮崎晋一私としては、『このへんまでは許してくれるんじゃない?』というところを探りながら、その中でおもしろいものを目ざしたいです



(竹)難しい問題を作りやすいパズルって、なんでしょう? 先ほど出たひとりにしてくれはそうだと思うんですけど、ほかでは?

宮崎晋一美術館ですね。あれも『見つけにくさ』とほかの手筋との兼ねあいが悩ましいですけど

(金)向き合った2とか3の手筋。共同戦線?鴈野さんは向き合った2とか3の手筋をよく使いますよね

鴈野敏生両方共通の列をもっている手筋ですね。よく使いますねえ。ほかの手筋を知らない、といったほうが正しいかもしれない(笑)

(竹)あの手筋はよく使われるから、名前をつけておくとこういう話をするときに便利かもしれないですね

(金)『共同戦線』とか?

宮崎晋一この2つのマスには照明が同時に置けない、というのはわりと気づきやすいんですけど、そのあと、同じラインのほかのマスに照明がつかないということに気づくと、ちょっと頭を使った気になれますよね

鴈野敏生あれを拡張して、4つのラインで使って四角形を作るとどうなるかな、というのを一時期研究しました

(金)そこまでいくと、先読みの部類になっちゃいますね。おもしろいけど

宮崎晋一美術館でいえば、私は『3』の使いかたにはこだわっています。入り口なんかは別なんですけど、基本的には『このマスには照明が置けないから残り3つが照明だ』という決まりかたはできるだけ避けています。別のところから『3』のまわりの照明が3つ決まって、残り1つのマスには照明が置けないからここを照らすためには…、と決まる流れが好きなんです

(竹)なるほど。ふつうは『3』は序盤に決まることが多いから、その印象を逆手に取っているんですね

鴈野敏生私はそこまで考えてないなあ(笑)

(竹)逆に難しい問題を作りにくいパズルはどうですか?

鴈野敏生数独ですね。思っていたのと違うところからカンタンに解けちゃうことが多い

(金)数独はそうですね。宮崎さんは数独はあんまり作らないんでしたっけ

宮崎晋一ぜんぜん作らないです。高校のときに作ったことはあったんですけど、そもそもハタンなく作るのが困難でした

(金)数独は、たくさん問題を作る作家でもそういう方が多いですよね。特に、解き味をコントロールしようという意識が強い人ほど苦手な印象があります。コントロールしづらいからでしょう



(竹)今日は『難しい問題』がテーマですので、難しい問題がなかなか解けない、という方へのアドバイスなどあればお聞かせください

宮崎晋一私の問題に関して、になっちゃいますけど。『ヒントが見つけにくい問題』というのはなるべく避けるようにしているので、根気よく探せばきっとヒントが見つかるはずです。あとは、どうしても解けないときは無理に解かずに時間をおくのもいいかもしれません

鴈野敏生自分なりに、自分が理解している『手筋』を書きだして整理してみるといいかもしれません。数独だったらこういう手筋がある、スリザーリンクだったらこういう手筋がある、というふうに。そうすると自分の頭の中が整理できるし、新しい手筋も見つけやすくなります

(金)それは、よくわかるんですけど、初心者のみなさんにその作業をやっていただくのは敷居が高いかもしれません

鴈野敏生だとしたら、ニコリとして手筋を整理して紹介した文書を作るべきかもしれない

(金)そうかもしれませんね。でも、ニコリとしては、新しい手筋は解く人に自分で気づいていただきたい、というのもあるんですよ。それがパズルの醍醐味でもあるので

(竹)どこまでニコリからご提供して、どこから解き手にお任せするかというのは、難しい問題ですね。ともあれ、手筋というものについて意識を向けると、難しい問題にくみしやすくなる、というご意見はそのとおりだと思います。今日はおもしろいお話をありがとうございました


座談会開催 : 2010年11月 2010年12月12日公開

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