パズル作家座談会 第16回

インタビュー作家座談会

美術館よもやま話

パズル作家をおよびして深く語りあうパズル作家座談会のコーナーです。今日は人気ペンシルパズルの美術館について話します。ゲストは坂本伸幸さん339さん。ニコリからは(金)(竹)が参加しました。

(竹)今日のテーマは美術館です。美術館といえば、先日、339さんがnikoli.comのブログで美術館の手筋(解くときの考えかたや解きかたのパターン)についての記事を書かれていましたよね

339手筋の『表』と『裏』の話ですね

坂本伸幸あれは興味深かったです

(竹)読んでいない方へ簡単に説明します。339さんによると、美術館の手筋は大きく『表の手筋』『裏の手筋』の2つに分けられます。表の手筋は、数字を手がかりにして照明を置く手筋で、裏の手筋は、照明が『まだ照明に照らされてないマス』によって決まる手筋です。たとえば、4があるときにそのまわりに4つ照明を置くのは表の手筋。0の隣のマスを照らすために別のところに照明を置くのは裏の手筋です

339美術館の基本は、表の手筋なのかなって最近思っています。裏の手筋は『照明が置けないマス』を探さないといけないので、表の手筋より見つけにくいんです。裏の手筋を難しいほうに発展させていくと、どんどん見えにくくなってしまう。だから、表の手筋を中心にして問題を作るのが筋かなあと思うようになりました。たとえば、2010年7月にnikoli.comの逸品館に選ばれた坂本さんの問題。ひたすら1のナナメの手筋(盤面の角に1があるとき、そのナナメどなりのマスには照明が置けないという手筋)を使う問題なんですが、あれはまさに表の王道の問題だと思います

坂本伸幸王道ですか?

339難しい手筋だけど、とても見えやすく作られています

(竹)3と3が1列ずれてあって、あいだに照明が置けない印をつけられる手筋表の手筋でも、見えにくい手筋はありますよね。こんなふうに3と3が1列ずれてあって、あいだに照明が置けない印をつけられる手筋

339鴈野さんがよく使われている手筋ですね。確かにあれは表の手筋の中では見えにくいですね。おもしろいけど。

 1と1が隣りあっていて、それを左右から照明で挟み込んだときの手筋ボクが好きなのは、1と1が隣りあっていて、それを左右から照明で挟み込んだときの手筋。勝手に『挟み撃ち』とよんでいます。

 2と2を隣りあわせたときの手筋2と2を隣りあわせても、同じような理屈が使えるんですけど、ボクは1と1が隣りあった形が好きです。2と2だと、まわりに関係なく独立でいきなり決まるので、逆に仕掛けに気づきにくいんです

(竹)そういえば、坂本さんはこの手筋はあまり使っていないですよね

坂本伸幸ええ。でも、こないだ、ほとんどその手筋しか使わないで解ける問題を作りました。ひとつの手筋を繰り返すのが好きなので、使うときは徹底的に使うんですよ

(金)坂本さんの問題は、同じ手筋をくどいくらい使いまわすのが特徴ですよね

坂本伸幸いろんな手筋をちらばすのが苦手なんですよ。基本的に手筋をそんなに覚えていないんです。ふと最近使っていない手筋を思い出して、せっかく思い出したんだからとその手筋だけで作る感じです

339解き手には、どちらのタイプの問題が好かれているんでしょうか。いろいろな手筋をちらばす問題と、ひとつの手筋にこだわる問題と

坂本伸幸たぶん、どちらにもそれぞれ好きな人がいるんじゃないですか。ニコリでも、どちらのタイプの問題も同じくらい解ける状況がいいと思います

(竹)もちろんニコリではどちらかに偏らないようにしています

339いろんな手筋をちらばすのが難しいと思うのは、小さいサイズの問題。美術館でいろんな要素を詰めこもうとすると、どうしても黒マスで空間を区切らないといけなくなります。でも、美術館って、一手でヒョッと進むのが気持ちいいところがあるじゃないですか。空間を区切りすぎるとその気持ちよさがなくなるので、バランスが難しいなあとよく思います

坂本伸幸難しいですね。でも。一気に解けていくのがおもしろいのって、nikoli.comやケータイならではかもしれませんよ。紙だと、もしかすると見えにくくなるかもしれない

339そうですね。ボクが紙で問題を作ったり解いたりするときは、照明が照らされるマスには1マス1マス斜線をつけていくんです。だから一手一手を追うのに時間がかかる。一方で、パソコンやケータイだと一瞬で光が照らされる。感覚が狂ってしまうので、今は紙の美術館はあまり解いていないです

(竹)でも、作るときは紙の上でなんですね。作るときと解くときで、感覚にギャップがないですか?

339あります。問題を作るときは、nikoli.comで解いているときを想像しながら作っています。そもそも作るときって、解くときと違って一気に作るわけじゃないですよね。ひとつ決めたら、次はどうしようかなってじっくり考える。パソコンで作っても、解くときより時間はかかります

坂本伸幸ボクはパソコンで作っています。もう紙には戻れないなあ

339でも、問題を作っていて、いろいろな記号を入れたくならないですか? たとえば、この2つの黒マスのどちらかに『0』を入れたい、どちらに入れるかは後半の展開で決めたい、ということがありますよね。そういうとき、ボクは忘れないよう2つのマスに○をつけておきます

(竹)なるほど。そういった柔軟な印のつけかたができるパズル制作用のパソコンソフトは、今のところあまり見あたらないですね

坂本伸幸印を使うような細かい計画が必要な問題は、ボクは作らないです。あと回しにして忘れそうだと思ったら、先に答えを決めちゃう(笑)

(竹)339さんは遠大に計画された問題をよく作られていますよね

(金)『解けかた』のコントロールというのを意識している?

339めちゃめちゃ意識してます。特に10×10サイズの美術館だと全部コントロールしています。右下の部分を作っているときでも、左上がどうなるか考えながら作っていたり。でも、14×24のような大きいサイズの問題になると完璧にコントロールするのは無理です。脳が容量オーバーになります

(金)339さんでも容量オーバーってあるんですね。脳内リソース無限大だと思っていました

339そりゃあ、ありますよ(笑)。行き当たりばったりになることもあります

(竹)坂本さんはどうですか?

坂本伸幸ボクは最初から行き当たりばったりです(笑)。解かれる順番というのはあまり意識していません。ただ、その問題で使いたい手筋があったら、とにかくたくさん使ってもらいたいと思って詰めこんでいます。手筋をたくさん使ってもらえたら成功。解けかたは人によって多少違っていてもいいと思っています


339美術館って、今でも新しくて難しい手筋がどんどん出てきていますよね。どこまでいっちゃうんだろうって思うことがあります

坂本伸幸ある意味では正常な流れな気がします。美術館って、基本的にはやさしめのパズルだから、難しい方向を目指してもいいんじゃないでしょうか

(金)そうですね。やさしい問題は大切なんだけど、そればっかりだとやっぱり飽きられちゃう。だから難しい問題も必要。パズル作家には難しい手筋を考えるのが好きな人が多いから、必然的にどんどん難しい手筋が開発されるんです

坂本伸幸美術館はそういう面があっていいパズルだと思います。これがたとえば波及効果だと別。あのパズルであんまり難しい手筋を使われたらもう、どうにもならない(笑)

(金)波及効果にそんなに難しい手筋は残されているのかな?

坂本伸幸あまり開発されていないだけで、実はありそうな気がしています

339グルグル回る手筋というのはできないかな? こういうふうに1を並べて置いて、3もこう並べて…(ネタばらしになるかもしれないので伏せます)

坂本伸幸また凄いことを思いついちゃって。きっと誰も解けない問題になりますよ

339そうかなあ

(竹)まあ、波及効果はまた別の機会にやるとして、美術館の話に戻ります。難しい手筋はどんどん開発されています。でも逆に、美術館って、らくらくとたいへんの中間、おてごろの難易度の手筋は少ないように思いませんか?

339さっき話した1のナナメの手筋はおてごろだと思います

(竹)最近出てきた解き筋ではなにかあるでしょうか?

坂本伸幸それはないんじゃないかなあ。新しい手筋といった時点で、すでに難しいことが多いから。手筋の難易度の話だと、ボクのイメージと実際にニコリで出題されたときの難易度に実はズレがあるんです。ナナメの手筋は、ボクの中ではおてごろじゃなくてたいへんだという認識です

339そうなんだ。ボクはおてごろだと思います

(金)斜めの手筋は、理屈としてはぬりかべの角の2と同じです。ぬりかべで盤面の角に2があったとき、ナナメ隣のマスは必ず黒マスになる。ぬりかべだとこの手筋はらくらくにしているんです

坂本伸幸そういわれれば、確かにたいへんではないですね。これに限らず、ボクは基本的に手筋を難しい方向に評価しがちなんです。初めてパズルのルールを知った人が、その手筋に気づくかどうか、という見かたで評価してしまう

(金)その視点は、ニコリも大事にしています。いいことだと思います


(竹)軽い話でも。美術館で好きな数字はなにですか?

(金)坂本さんは0ですよね? よく使っていますから

坂本伸幸うーん…難しいなあ。4か0のどちらかなんですけど

(竹)4はなぜですか?

坂本伸幸さっきの話でも出たけど、ボクは解けかたのコントロールが苦手なんです。でも、4ならコントロールできるじゃないですか。どこに置いても、解く人は最初に照明を4つ入れてくれる

(金)確かに、完璧に制御できますね

坂本伸幸0が好きなのは、万能選手だからです。入り口にもなるし、中盤でも終盤でも使える。だから4と0で迷いました

(竹)339さんはどうですか?

339ボクは1です。いろんな手筋に使えるんですよ。ナナメの手筋にも使えるし、挟み撃ちの手筋にも使える。もし1種類の数字だけで問題を作れといわれたら、1だけで作りたいです。2だけや3だけでは作りたくないです

(竹)バラエティの豊富さが好きなんですね

339そうです

坂本伸幸好みがはっきり分かれていますね。いろいろ万能に使える1が好きか、いつでも『こうなるしかない』という4か0が好きか

(金)0といえば、0で照明を置けないマスを決めて、その隣に3を置く、という作家はあんまりいませんね。スリザーリンクの03定理と同じくわかりやすい入り口だと思うんですけど

坂本伸幸いわれてみればそうですね。いそうなんだけど。美術館の場合、もっとわかりやすい入り口として4があるからかな

339でも、ちょっとおもしろそうですね。スリザーリンクの0、3、1、3、1、3という定番の並びも、美術館でできそう

(竹)まわりの三方が0に囲まれた1、というのもできそうですね

339あとでちょっと作ってみようかな

坂本伸幸やっぱり美術館は奥が深いなあ。まだまだ開発されていないネタがありそうですね


(竹)そろそろお開きにしたいと思います。おふたりの美術館への思いをひとことずつ語ってください

339ボクは、ウェブサイトで解けるようになったころから、ずっと美術館の問題を作ったり解いたりしてきました。これまでnikoli.comで展開されてきた美術館の流れに、多少なりとも貢献してきているという自負はあります。美術館はボクにとってスリザーリンクの次に大事なパズルです

坂本伸幸ボクにとって、美術館は表現の場です。美術館って自由度が高いから、やりたいことを表現しやすいんです。光が端から端まで進む問題もできれば、ちまちまと解けていく問題もできる。自分を気持ちよくさらけ出すことができるんです。これからもさらけ出していきます

(竹)今日はありがとうございました

※後日、339さんがこの記事用に問題を作ってくれました。339さんのコメントともに発表します。座談会中に出てきた手筋も盛りこまれていますよ。

339さんがこの記事用につくってくれた問題

339流と坂本伸幸流を比べる意図で2問作りました。座談会の中で出てきた『「数字によって定められる光が置けない場所」によって押し出されて決まる手筋(要するに03定理とか三方を0に囲まれた1とか)』をメインの手筋に据えています。1問めは自分が理想と思うように作ったもので、基本的に解けかたがひととおり、途中でアクセントに「救出」の手筋が入ります。2問めは坂本さんであれば、途中の「裏」の手筋はないだろうと思って、1カ所だけ変更しました。ひとつの手筋へのこだわりと、坂本さんらしい「最後にドン(と目立つ手筋を入れる展開)」を追い求めるならこの形だと思います。

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この問題はサイズを大きくして、座談会で出てきた手筋を使いながら、おてごろを保ちつつ上級者を楽しませるのが狙いです。座談会で「おてごろの手筋が少ない」という話が出ましたが、手筋はなくても見せかたを工夫すればおもしろい問題はできます。

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座談会開催 : 2011年3月 2011年4月19日公開

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