パズル作家座談会 第23回

インタビュー作家座談会

クロスワードの作りかた

ニコリが運営するケータイサイト「ニコリのケータイパズル数独」では、クロスワードを定期的に出題しています。今日は、ケータイでクロスワードを作ってくださっている小見枝まやさん、ひらりんさんといっしょに、クロスワード作りについて語りあいました。ひらりんさんは「ひらやまひらめ」という名前で、昔から『パズル通信ニコリ』などで活躍されているクロスワード作家です。ニコリスタッフからは(金)(竹)が参加。ちなみに、(金)は「串丸」、(竹)は「にゃんばず」という名義でクロスワードを作っています。

(竹)今日はクロスワードについて語りたいと思います

(金)ひらりんさんのクロスワードには、必ずなにかテーマがありますよね

ひらりんテーマというか、これをやろう、というのは決めて作っています

小見枝まや私もそれは同じ。逆にそうしないと作れません。どんな言葉でも入れていい、というと広がりすぎて言葉が入れられないです

(金)小見枝さんの作品といえば、ラブラブのクロスワードが印象深いです

小見枝まやこないだ載ったやつね。カギが全部、結婚を間近に控えた女の子の口調になっています

(竹)(ケータイの画面を見ながら)この問題ですね。2011年10月9日出題。カギが全部セリフになっています

小見枝まやそうそう。ルンルン気分にするためにセリフの最後を全部♪マークにしたんだよね

ひらりんなるほど、ストーリー性があるんですね。テーマといっても、こういう方向の問題は私は作らないから新鮮です

小見枝まやこういうのは、私にしかできないかなって思います

ひらりん小見枝さんのキャラクターが出ていますよね

小見枝まやただ逆に、いつもキャラを出し過ぎちゃうのが悩みです。万人向けの問題がなかなか作れないんです。特にカギをつけるときにどうしてもキャラが出ちゃう

(金)ケータイに限っていえば、キャラを出すのはぜんぜん問題ないですよ。そのために作者名も表示しているんですから

ひらりん逆に、解く側の立場としてクロスワードを見たら、名前が出ているんだから作家ごとに違いがないとつまらないでしょう。もし違いをなくしたいのだったら、問題ごとに作家名を出さないほうがいいと思います

(竹)小見枝さんが万人向けじゃないと思うカギって、具体的にはどんなカギなんですか?

小見枝まや入る言葉に対して『私はこの言葉について、こう思う』というようなカギです

(竹)エッセイ的なカギですね

小見枝まやそう。そこから離れよう、断ち切ろうとすると、今度は辞書的な、個性のないカギしか浮かんでこない。両極端しかできないんですよ

(金)私はこう思う、というカギは悪くないと思いますよ

ひらりん言葉というのは、一種の習慣じゃないですか。同じ言葉でも、その人がこれまでどういうふうに使ってきたかでイメージがぜんぜん違う。生活に密着したカギをつけようとすればするほど、その人の個性が出る。解いている側からすれば、確かに『うーん、私はそうは思わないなあ』と思うことはあります。でも、おもしろいかおもしろくないかでいったら、辞書的なカギよりおもしろいと思います

小見枝まや人間味が出ますもんね

(金)辞書的なヒントは、やっぱりつまらないですからね。結局、解いて楽しければいいんです

(竹)この作者はこの言葉に対してそういうふうに考えているんだ、と感じることもクロスワードを解くときの楽しみのひとつかもしれませんね

(竹)クロスワードって歴史があるパズルですよね。これだけ長く続いたのはどうしてなんでしょうか

小見枝まやルールを説明しなくてもわかるのが大きいよね

ひらりんそれと、数字よりも抵抗感がないんじゃないかな。数独がブレイクスルーになって間口を広げたと思うけど、それまでは数字のパズル、というだけで敬遠されていた時代が長かったように感じます。送り手も、受け手も

小見枝まやパズルといえばクロスワードかジグソーパズル、って感じだったんじゃない? 昔は

ひらりんあとは、企業が広告として使いやすいというのもあると思います。企業がなにかを宣伝するためにパズルを使うときに、クロスワードだと商品名を入れやすいんですよ

(竹)二重枠に入った文字を並べて、出てきた言葉はなに? といった使いかたですね

ひらりんええ。ボナンザグラムという、文章の穴を埋めるタイプの懸賞があるんだけど、あれよりちょっと頭を使う形の懸賞にちょうどいい

小見枝まやジャンルも限定しやすい。漫画雑誌のクロスワードだと、漫画のキャラに関係するような言葉が入ったり。ただ、漫画雑誌のパズルは、2文字言葉の一部がフクロ(ほかの言葉との絡みがないマス)になっていたり、盤面が分断されていたりして気持ち悪いのが多いんだけど。「クロスワード」なのに、言葉がクロスしてないじゃん、って

ひらりんクロスワードはプレゼント付きの問題には広く親しまれていますが、純粋な言葉のパズルとして趣味にしている層は、また別の話ですよね。だから、クロスワードそのものの歴史は古いんだけど、パズルとして成熟してきたのは比較的最近、それこそニコリが担った役割は大きいかもしれない。たとえば黒マスを点対称に置くことをスタンダードにしようと決めたのも、雑誌としてはニコリが最初に近いと思いますし

(竹)そうかもしれませんね。逆に、言葉を使うからこその弱点もあると思います。nikoli.comで今のところクロスワードを出題していないのも、日本語がわからない海外の人が解きにくいからですし

ひらりんクロスワードの弱みでいえば、ほかに、問題ができてから長く時間が経つと解けなくなるかもしれないというのもあります

(金)時事性ですね。言葉には時代性がありますからね。今、エリマキトカゲなんて気軽に問題に使えません(笑)

小見枝まや当時を振り返るクロスワード、とかだったらありかもしれない

ひらりんでも、私は時事性をいいほうに考えていて、今、この言葉につけるんだったらこのカギしかない、というカギをあえてつけるようにしています。10年後に通用することよりも、今解くおもしろさを優先したい。それと作家の立場だと、いつの時代も通用するカギはなるべく温存したいじゃないですか

小見枝まややっぱり、賞味期限があったほうが新鮮味がありますよね

ひらりんさっきのエリマキトカゲもそうですけど、ボキャブラリーに個人差があるのも言葉ならではの難しさですよね。あるていど割り切って作らないとなにも作れなくなっちゃう。だから割り切るところは割り切って、その代わり自分でも難しいかもと思う言葉にはなるべくカンタンなカギをつけるようにしています。解いてもらうのが重要なので

(金)でも、ひらりんさんの問題は全体的に難易度が高い問題が多いですよ

ひらりんそこはどうなんでしょうね。やっぱり私の問題は難しいですか?

(金)難しいですよ

小見枝まや出てくる言葉が難しいのかな?

(金)言葉よりも、カギが難しいですね。ひらりんさんには難しい問題を期待しているのでいいことなんですけど

ひらりんカギの順番に埋めていける一問一答のクイズ集みたいな問題はつまんないなあというのはあります。タテヨコの絡みで考えてもらいたいんです。シンプルなカギでも、パッと見では言葉を入れられなくて、まわりとの絡みを確認して、入れてもらえるようにしたいんです

(金)クロスワードのカギとしては正しい方向だと思うんだけど、そうすると難易度としては難しいほうに評価するしかないんですよ

ひらりん難しいといっても、知識クイズのような方向は好みじゃないです。知らないことを問題にするのは誰でもできるんです。私がやりたいのは再発見。知っていることを改めて気づかせることです

(金)そうなんだよね。ひらりんさんのカギはひとつひとつがすごく凝っている

ひらりん私、自分の理想を『アンチトリビア』とよんでいるんですよ

(竹)アンチトリビア…つまり、トリビアの反対ってことですか?

ひらりんええ。近ごろいわれているトリビアは、知らなかったことを知って『へぇー』って言わせることじゃないですか。私はそっちには興味がなくって、『なるほど』と言わせたいんです。すでに知っていることに対して『あ、なるほど、確かに』と言わせるのがエレガントだと思うんです

(金)それだけ凝っているから、ひらりんさんは寡作なんですよね。私、自分が作った問題に対して前にひらりんさんに言われたことがあるんですよ。(金)さんのは30分で作ったみたいなクロスワードですね、って(笑)

小見枝まやそれはそれで必要な問題ですよね

ひらりん私自身は、これでも作るのが早くなったんですよ。昔ほど時間を取れなくなったのもあるし、技術面で効率が上がったのもあります

小見枝まや私はほかのパズルでもそうだけど、まず解いてもらわないといけないという気持ちがあります。パッと見で難しいと思われたら解いてもらえないから、作りにくいです

ひらりんやさしい作品のほうがニーズがあるというのはわかるんですよ。将棋の本だって入門書がいちばん売れているそうだし。ただ、それでは食い足りない人もいて、私はそういう人にメニューを出したいんです

(金)そうですね。やさしいのも難しいのも必要です。だから、クロスワードをケータイで始める、と決めたときに、ひらりんさんは絶対に必要だろうと思って声をかけました。間違っていなかったと思います

(竹)クロスワード作りには、盤面を組む(黒マスを置く)、言葉を組む(答えの文字を決める)、カギをつけるの3つの過程があると思います。どれに重きを置いていますか?

ひらりん昔はカギづけが好きだったんですけど、今は盤面組みや言葉組みの楽しさもわかってきました。私自身、近年は盤面、言葉、カギと作る過程で分けて考えるのではなく、構想、構成、演出という分けかたでとらえています。構想は表現したいアイディア。構成はそれを問題として成立させていくこと。最後の演出が、解き手に解いてもらうためのアプローチ

小見枝まや私も盤面、言葉、カギと分けては考えられないなあ。カギをつけにくい言葉は入れにくいとかあるから、並行した作業ですよね。ただあえて言えば、私は言葉を組むのが好きです。この言葉にはこういうカギをつけよう、と考えながら文字を埋めていくのが楽しい。ただ、入れたい言葉を入れていくと、入れたくないけどしかたなく入ってしまう言葉も出てきますよね。それにカギをつけるのがいちばん時間を食っちゃいます

ひらりんさっきの構想、構成、演出でいうと、しかたなく入ってしまった言葉は構想にないものですよね。だから演出でカバーするんです。なるべく構想をジャマしないカギを作る。ちょっと話が飛ぶんですけど、私が好きな作家に都筑道夫という推理作家がいます。もう亡くなっていますけど

小見枝まや知ってる。昔、文学少女だった時代に読んでいました。懐かしいなあ

ひらりん最近、彼のエッセイを読み返していたら、同じようなことが書いてあったんです。彼は自分が理想とする推理小説をエドガー・アラン・ポオのイマジネーションと、エラリイ・クイーンのロジック、エドマンド・クリスピンのウィットだ、と書いていました。平凡でない謎が、緻密な論理で解かれるのを、気の利いた文章で表現する、ということだそうです。それを読んで、私が最近クロスワードで目指しているのもまさにそれだと思いました。平凡でない着想を、緻密に選んだ言葉で組んで、気の利いたカギで解けるように導く

(竹)なるほど。よく似ていますね

ひらりん余談になっちゃうんですけど、名前を出したからついでに。都筑道夫は、さっきの自分の理想の話のあとに、でも、それだけじゃ本は売れない、売ろうとするにはアガサ・クリスティーのメロドラマが必要だと書いているんです。彼自身は情緒性を排除したいんだけど、売れるためには必要だと。そのあたりも共感できるんですよ。私も、こうすればもっとたくさんの人に解いてもらえる、というのはわかっているつもりなんです。わかっているんだけど、自分が解きたいものを作ることを優先してしまう

(金)思いっきり硬派ですね

小見枝まや私はそれとは逆かな。いかにここで人の心をつかむか、というようなことを考えて問題を作っています

(竹)さっき話に出た結婚クロスワードはまさにメロドラマですよね

小見枝まやドラマというよりバラエティかな、テレビにたとえると。どこで笑わせるかとか、そっちに考えが行っちゃいます

ひらりん私も別に解き手を突き放したいわけじゃないんですよ。ただ、年末のテレビでNHKの紅白を観る人はもちろんいるけど、テレビ東京のジルベスターコンサートを楽しみにしている人もいる。そういう視聴者も大切にしたいんです

小見枝まや私も紅白は目指してないんですけどね。万人受けではなくて、自分のキャラは出したいから

(竹)話はまったく尽きる気配がありませんが、お時間となってしまったのでそろそろ締めたいと思います。これまでケータイに載った自作クロスワードの中で、特に気に入っている問題はありますか?

ひらりん気に入っているというか、去年作った問題で特に作るのに苦労した問題をひとつ挙げていいですか。2011/9/25出題の問題です

(竹)まだデイリーパズルMIXの『かこもん』にありますね。苦労したということは、なにか仕掛けがあるんですよね。ミがたくさんある、くらいしかわからないなあ

ひらりん30分答えを見続けても仕掛けはわからないと思います。これ、2011年7月に作ったんですよ。なでしこジャパンがサッカーのワールドカップで優勝した直後。これはクロスワードにしなきゃと思いました。だけど、たとえばナナメに『ワールドカツプ』が浮き出てくる、なんていうのは私の芸じゃない。決勝のPKを最初に決めた宮間あやがカッコよすぎて、彼女に惚れたので、これをなんとか入れられないかと考えました。いろいろ頭をひねり、文字の使用回数順に並べたらミ、ヤ、マ、ア、ヤとなる、というアイディアが浮かびました。でもよく考えたら、ヤの字が2回出てくる。ダメじゃん! でも、このアイディアが捨て切れず、未練がましく考えているうちに、ヤには大きいヤと小さいャの2種類あることに思い至りました。ミ、大きいヤ、マ、ア、小さいャとすれば行けるかも。ここまでが構想で、ここからが構成です。ざっと計算してみると、盤面に入る文字はだいたい60個だから、ミ、ヤ、マ、ア、ャで7回、6回、5回、4回、3回、ほかの文字は2回以下でやるしかなさそう。ヤとャを分けて入れるからには、ほかの部分でもたとえばツとッが絡まるようなことはしたくない。ということを考えながら組み込んでいったら、エライことになりました。できたと思ったらンが3個入っていたり。3回くらい、一から盤面全体を組み直しました

一同へええ

ひらりんそれ以外では、2011年1月に出題された問題が気に入っています。入る言葉がすべてカタカナの外来語になっている、というものです((竹)注:すでにデイリーパズルMIX上では遊べません。次々巻以降のどっさりパックで収録予定です。ペコン)

(金)あれは力作でしたね。少し苦しいかも、という言葉もマージぐらいしかなさそうだし

ひらりんこれは、宮間あやに比べると構想はシンプルですが、構成段階は苦心しました。うっかりすると交差に外来語以外の言葉ができてしまい、それを修正するとなると小手先では行かないんですね

(竹)確かに大変そう

ひらりんカギのほうは、外来語であることを印象づけるために、あえて辞書的な訳語のヒントを多用しました

(竹)構想をフォローするための演出、の例ですね

ひらりん言葉組みでは特に2文字の外来語が不足するので、11x11では作成の難易度が格段に上がる気がします。とはいえ7x7では迫力不足なので、その意味でも9x9のケータイサイズ向きの趣向だったのではないかと思います

(竹)小見枝さんのお気に入りはどれですか?

小見枝まや私は、前のほうで話に出た結婚前の女の子の問題と、それから『○月×日』の問題

(金)カギ全体が絵日記風になっている問題ですね

(竹)2010年12月2日出題です。たとえば、タテ2のカギが『○月×日:アジサイの葉っぱになにかいるなーと見たら、カタツムリじゃなくて――だった。うわあ』((竹)注:これもすでにデイリーパズルMIX上では遊べません。次々巻以降のどっさりパックで収録予定です。ペコン)

小見枝まやウケ狙いの問題ということで。まずカギを見た瞬間に、ウケてもらいたい。私にとって大事なのはそこなんです。問題を見て『小見枝らしさ』が解く人に伝わったらうれしいんです

(竹)今日はいろいろと興味深い話をありがとうございました。やっぱりクロスワードは奥が深いですね。これまで敬遠していた方も、この機会にぜひクロスワードで遊んでみてください


座談会開催 : 2012年1月 2012年2月13日公開

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